ZOOM UP vol.001
七代目 金城一国斎

平成の一国斎、池田昭人氏。
天は二物を与える。
CM出演の依頼も来るほど。
七代目 一国斎、池田昭人 35歳(H12年現在)。

1993年11月、七代目襲名を披露する個展が
広島三越で開催され、会場は待ち焦がれた
地元のファンの熱気と期待に包まれた。

広島でいま話題の工芸家である。

一国斎は「高盛絵」という独特の漆工芸を広島で150年間も守り続けている家系。

読んで字のごとく図柄を高く盛り上げて描くこの技法は「堆彩漆」とも呼ばれ、日本では一国斎だけがその技と名を一子相伝で受け継いでいる。


漆を筆で塗り、乾かしては塗り重ね、厚みを出し、
その上に彩色して仕上げる。
大変に手の込んだ手法だから、香合(香料を入れる箱)などの小品でも半年、たいていの作品は完成に何年もかかる。


盛り上がった漆の立体感は、優しい図柄にはふくよかさを、
雄々しい絵には力強さを醸し出す。
この魅力的な風合いは、一度とりこになると、忘れられない。


そもそも、半世紀前に都市が壊滅した広島に、このような伝統工芸が存在していることは奇跡的なことである。
混乱の時代に高盛絵の技術を命がけで残したのは五代、六代の一国斎だった。
その2人が平成3年に相次いで亡くなった時には、長い伝統もこれまでかと思われた。
それだけにこの若々しい後継者の鮮やかなデビューは、この上ない慶事だった。

六代の長男である昭人氏は、香川県漆芸研究所を終了後、祖父と父について高盛絵の修行を積んだ。
平成4年から日本伝統工芸展に連続入選も果たし、あの天皇家の雅子様にも制作、また広島県とハワイ州の友好提携の為もに制作している。


「今の私はぎゅっと絞ったスポンジ。まだまだだけど、伝統のなかに新しいモチーフも取り入れてみたいし、全国に高盛絵を知ってもらいたい。平成の一国斎をみてください。」
1994年JAL ウインズより
歴代一国斎が残した伝統技術を守り、これからも伝えていきたい。
そしてもっとたくさんの人々に高盛絵を知って欲しい。
そんな気持ちから今回のホームページ開設に至った。


(七代 金城一国斎 インタビュー)
柔らかな質感と豊かな色彩

高盛絵とはどんな漆芸技法なのですか?

高盛絵は、普通の漆器のような平面的な加飾ではなく、漆を筆で立体的に盛り上げ、顔料を混ぜた色漆で彩色する技法で、専門的には堆彩漆といいます。盛り上げに使用する漆は高盛漆と呼ばれ、漆と砥の粉を独特の調合で練り合わせたものです。歴代の一国斎高盛絵の作品は、四季の花鳥風月を題材とし、柔らかな絵画性、重厚な質感、色彩の豊富さを合わせもつのが特徴です。

初代はいつ頃のかたなのですか?

初代一国斎は、1811年(文化八)に尾張藩の御用塗師となった人で、中国風の蒔絵を得意としました。
二代は初代の次男で、漆芸研究のため鎌倉や長崎など諸国を遍歴し、中国などの加飾的な技法を学び、高盛絵を考案しました。
1843(天保十四)頃、大坂で開業していた二代は、眼病治療のため訪れた広島で、三代に出会って高盛絵を教え、一国斎の名を譲りました。
三代はさらに研究を重ねて高盛絵の技法を完成させ、以後、一子相伝という形で七代の私に至っています。

七代一国斎を襲名されたのは二十六歳の時だったそうですね。

はい。平成三年の初夏、父(六代)と祖父(五代)を相次いで亡くしました。
父は54歳、祖父は85歳でした。
父の初七日を済ませて、そろそろ仕事を始めようかという時に、祖父も心臓発作で急死したんです。
その年の秋、歴代の一国斎の仕事を通覧する展覧会を開くことになっていて、私はあれこれ考える余裕もないまま、その準備に追われ、展覧会の初日に襲名したというわけです。
実は、祖父には知らせていなかったんですが、父は半年の命と宣告されていたんです。
私は覚悟を決めて、祖父と一緒に仕事をしていましたが、これを機会に一国斎のルーツや高盛絵の技法について祖父に詳しく聞いておこう考えました。
必死でしたが、展覧会の準備という名目があったからこそ、臆することなくいろいろなことが聞けたので、いま思えばよかったと思っています。


焦らず平成の高盛絵を

このお仕事には自然に入られたのですか?

まったく抵抗はなかったですね。
ほかの仕事につきたいと思ったこともありませんでした。高校を卒業してすぐ高松の香川県漆芸研究所に入り、いろいろな漆の技法を学びました。
高盛絵の技法は、五代に師事して学びましたが、現在の創作の中心は高盛絵ではありません。
高盛絵の作品も作ってはいますが、まだこれが自分の高盛絵だといえるものはないんです。
というのは、高盛絵という技法自体が、明治や大正時代の非常にデコレイティブな趣味のもので、そのままでは現代に通用しないと思うからなんです。

七代一国斎ならではの高盛絵を作りたいと・・・。

ええ、私が作りたいのは大正や昭和の高盛絵ではなく、平成の高盛絵です。
といっても、伝統との繋がりを断ち、いきなり新しいものを作ってやろうと意気込んでいるわけではありません。
過去のものを勉強するのは大切です。時間はかかりそうですが、焦らずやっていこうと思っているんです。
技術を受け継ぐだけでなく、いかにそれを自分のものにし、時代に則した新しいものを作っていくかということ。
それが本当の意味での継承の姿だと思いますし、また、高盛絵はそういう未知の可能性を秘めた技法なんですね。

一瞬の美を促える

では、いま取り組まれているのは、どんな技法ですか?

彫漆という技法です。
高盛絵は模様の部分だけに漆を盛り上げていくんですが、彫漆はあらかじめ漆を何層も何層も塗り重ねておいてから、模様を彫り表わしていく技法です。

とても緻密なデザインですね。

デザインを考える時がいちばん集中しますが、デザインさえ決まれば、あとは手がどんどん仕事をしてくれます。
「無限」はカメラのシャッターからヒントを得たデザイン、「滝の糸」と「輪廻」は水の動きをテーマとしたデザインで、いずれも青を基調とし、一瞬の美を捉えようとしたものです。
今年は「日輪」をテーマにしようと思っています。赤という強い色に挑戦したいと・・・。

各画像をクリックすると大きな画像がでます。
無限
「無限」 「滝の糸」 「輪廻」 「日輪」

漆を塗り重ねた上に、細かく砕いた鶏卵の殻を一つ一つ貼り込み、さらに漆を塗り重ねる。
表面を研ぎだすと埋め込まれていた卵の殻の白い模様が現れる。
ブルーの濃淡10色の漆を3回ずつ塗り重ねているので、さらに漆の肌を研ぎだすと、
年輪のようなグラデーション模様が浮かび上がる。(「無限」・「滝の糸」・「輪廻」)


作品には箱が多いですね。

私は子供の頃から箱が好きだったんです。
箱を開ける時のわくわくする気持ちと緊張感。箱には夢があるでしょう。
何を入れようかな、自分だけの宝物箱にしようかなとか・・・。箱があると気持ちが潤います。
よく「何を入れる箱ですか」と聞かれますが、自分に好きなものを入れていただきたいですね。

美しくて夢のある作品、そして平成の高盛絵の作品を楽しみにしています。今日はありがとうございました。
1997年花ばさみより

高校時代は剣道の県チャンピオン。
爽やかな語り口にも気骨を感じさせる。
作務衣の似合うこの華やかな風貌の持ち主、工芸界に何か新しい風を吹き込んでくれそうである。

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