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父なる木下一国斎は、何分七十九の老人であるけれども、仕事をする他は眼鏡を用いない。 嗜好物としては晩餐に少量の酒を飲むのと、平素は抹茶、煎茶を一の道楽として居るのである。 又子なる池田一国斎は、酒は少しも飲まぬが煙草を少々飲むのと、壺中庵宗匠として俳句をやるのが、一の道楽である。 曾て去る二十七、八年の日清戦役の際陛下に献呈した、紀念の句に「薫風や御意にかしこむ御簾越」、又京都に於ける全国共進会にて御買上げとなりしは肉池(にくち)にて其時の句は「二度の御意聞くも嬉しき新茶哉」あり。 過日或る将官より誂(あつらえ)られし巻煙草入箱の出来て送られし外箱には「曇りげも抜た月夜や時鳥(ほととぎす)」の句あり。 四代一国斎は総て斯の如くに品の出来上った時を紀念のために俳句を箱に記すのである。 父子ともに昔執った杵柄(きねづか)の面影が、何処かに現われて、脱俗した点もあり、一見しても尋常一様の蒔絵師ではないことが首肯されるのである。 | |
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